東京高等裁判所 昭和55年(ネ)1662号 判決 1981年5月27日
控訴人 沖山勇雄
右訴訟代理人弁護士 藤井孝四郎
被控訴人 野口よしゑ
右訴訟代理人弁護士 後藤獅湊
主文
原判決を取消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
主文と同旨の判決
二 被控訴人
控訴棄却の判決
第二当事者双方の主張並びに証拠関係
次のとおり附加、訂正するほかは原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。
一 被控訴人の主張
請求の原因2項の全部(原判決二枚目表五、六行目)を次のとおり改める。
「2 控訴人は、昭和五〇年六月三日被控訴人の代理人である後藤獅湊弁護士に対して本件各手形の支払期日を延期することに同意したため、本件各手形の支払期日欄に記入されていた数字は右各手形の振出人である大沢正清によって抹消され、更に同年九月二九日に前記後藤弁護士に対し、控訴人が同年中に本件各手形の支払期日の決定につき具体的提案をしないことを条件に前記大沢正清及び被控訴人において新たな支払期日を決定することについての包括的同意を与えたが控訴人において右の提案をしなかったため、昭和五一年一月にいたって、大沢正清が本件各手形の支払期日欄に所要の数字を記入し、右各手形の支払期日を「昭和五一年一二月三〇日」と変更した。」
二 控訴人の右主張に対する認否
否認する。
三 証拠関係《省略》
理由
一 請求の原因1、3項の事実は当事者間に争いがない。
二 被控訴人は、本件各手形の支払期日はいずれも「昭和五一年一二月三〇日」と変更された旨主張するので、この点について検討して見ると、
1 《証拠省略》によれば、本件各手形のうち、原判決の別紙手形目録(一)の約束手形及び同(二)の約束手形の各支払期日欄には、いずれも「大沢正清」と彫刻された丸印が一個づつ押捺されてはいるが、そこに記入された日付は抹消された形跡がないのであって、右の各支払期日欄上部の欄外に「51.12.30」なる数字の副記がなされているにすぎないことが明らかである。
以上の事実関係によれば、右(一)、(二)の約束手形は、いずれも振出当時の状態で現存していることは明らかであり、右のように支払期日欄の欄外に別の日付を表わす数字の副記があるけれども、従前の支払期日を示す数字を抹消することなく(前記の押印によって抹消の効果が生ずるものではないことは、いうをまたない。)してなされた右の副記によって既存の約束手形上の権利関係に変動が生ずる理はないのであるから、この副記自体は、無意味な記載として扱うほかない。従って、右、(一)、(二)の約束手形の支払期日が変更されたとする被控訴人の主張は、他の判断をまつまでもなく理由がない。
2 《証拠省略》によれば、本件各手形のうち、原判決の別紙手形目録(三)の約束手形の支払期日欄に記入された日付を示す数字は、二条の線によって抹消され、そのうえに前同様の丸印が押捺され、かつ右抹消部分の上部欄外に「51.12.30」と副記されていることが認められ、原審証人大沢正清の証言によれば、右の支払期日の訂正は、振出人である同証人が被控訴人の意を受け昭和五一年一月に行ったものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。そこで、右の訂正につき控訴人が同意したかどうかについて検討してみると、《証拠省略》を総合すれば、大沢正清は、昭和四九年末に銀行取引停止処分を受け、本件各手形がその支払期日において不渡となることが明らかとなったため、被控訴人の代理人である後藤獅湊弁護士は、昭和五〇年二月一九日到達の内容証明郵便によってその旨及び本件各手形金は控訴人から支払を受けることを期待せざるを得ない旨通知したが、控訴人からは何の応答もなく、同年六月三日八丈島空港において後藤弁護士が大沢正清及び被控訴人の子である難波則充とともに控訴人に面接した際及び同年九月二九日八丈島のロイヤルホテルにおいて同弁護士が難波則充とともに控訴人に面接した際、同弁護士は控訴人に対し、前記通知の趣旨を重ねて伝え、本件各手形金の支払を要望したが、控訴人は「本件各手形については西武不動産とのトラブルが解決するまで待ってほしい。」旨答えたほか、九月二九日の会談の席上で後藤弁護士からなされた「今年中に大沢と相談して支払についての具体的提案をしてほしい。」旨の要請を了承したにすぎなかった事実が認められるのであって、その他の本件全証拠を検討して見ても、右の六月三日及び九月二九日の会談の席上控訴人がそこに居合わせた後藤弁護士らに対し、本件各手形の支払期日を被控訴人主張のとおり昭和五一年一二月三〇日と変更することに同意したと認めるに足りる資料がないことはもとより、被控訴人が主張するように右支払期日の変更につき包括的同意を与えた事実を確認するに足る資料もない。そうして見ると、前記(三)の約束手形の支払期日が昭和五一年一二月三〇日と変更されたことは、右手形面上の記載によって明らかではあるが、被控訴人は、右変更に同意していない控訴人に対し、変更後の支払期日をもって対抗するに由なきものであるから、右約束手形の支払期日は、控訴人に対する関係においては、変更前の昭和五〇年九月二三日であったとするほかない。
三 そして、請求の原因4項の事実は当事者間に争いがなく、右事実によれば、被控訴人は、本件各手形をその支払呈示期間内において適法に支払呈示しなかったことは明らかであるから、本件各手形の裏書人である控訴人に対し、右手形金の支払を求める本訴請求は、すでにその他の判断をするまでもなく失当として棄却をまぬがれない。
四 よって、これと趣旨を異にする原判決は不当であるからこれを取消すこととし、民訴法九五条、八九条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石川義夫 裁判官 寺澤光子 原島克己)